「ここで新しく予備校をはじめるんですね」
まだ寒さの残る3月、私は校舎を内覧しながら、知り合いの学習塾経営者にそう言った。
「そう。高校生も増えてきたし、浪人生も受け入れていきたいから、新しくここも借りたの」
私が小学生の頃通っていた学習塾の経営者夫婦とは、15年以上個人的な付き合いがあり、私が受験をすることにしたと伝えると、塾長夫人は「ちょうどよかった。今度、新しく予備校を開校するからうちにおいでよ」、とのことだった。
そうして4月、ここで私の浪人生活が始まった。
その予備校は立ち上げ当初で日中は講師が不在だったため、自ら電話対応や来客応対、備品の買い出し等をしたり、塾長夫人から斡旋された小学生の講師アルバイトをしたりもし、自分は生徒なのか、講師なのか、運営者なのかよくわからない状況で学習していた。
開校当初もう一人いた在校生は1カ月もしないうちに「今日も勉強できなかったですね…」と、一言つぶやき、塾を去ってしまった。
その日から、予備校は私一人になった。
学習面はというと、学生時代は全く勉強していなかったため、何をどう始めたら良いのか、皆目見当がつかなかった。漠然と苦手科目から潰すべきという考えはあったため、4月は学生時代、特にひどかった英語に専念することにした。
「まずは単語だろう。理解不要だから、自分のような馬鹿にもできる。1日30個やれば1カ月ちょっとで1000個だ。これだけ覚えればさすがに何かが変わるだろう」そんなことを考え、単語暗記を開始した。
文法は予備校にあった学習ソフトで1日1単元ずつ進めることにした。もともとの学力不足に加え、記憶力不足と、集中力不足もあり、単語30個暗記で順調にいっても1時間ちょっと、場合によっては2時間30分程度かかることもあった。
それまでまともに勉強をしてこなかったので、とにかく集中力が持続せず、非常にムラがあった。ただ、その日やると決めた範囲は単語も文法も完答できるようにしていった。そして必ず、翌日の学習は前日の復習から始めた。
一日の学習時間は4時間ほどだっただろうか。しかし、ゆっくりでも着実に知識が増えているという実感はあったと記憶している。
このようにして私の受験勉強はスタートした。
振り返ってみると、まともに勉強してこなかった割には、この「時間や進み具合ではなく、完成度を重視」「必ず復習から始める」という判断をしたことは賢明だったと思う。今振り返ると、早くからこの学習スタイルを構築したことが合格の決め手だったと断言できる。
学習内容
ー英語ー
システム英単語 1日30個
予備校の学習ソフト 1日1分野